男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「二人とも、ごはん食べたの?」
「あ、うん。」
「お風呂入ってきちゃいなさい。柚希君?だったわよね、洋服がなかったら陽君に借りてね...少し、小さいかもしれないけど。」
「有難うございます。」
母親は、何時ものようにふるまっていた。
あまりに違和感がなさすぎてことりは目を見開く。
「柚希、先に入ってきなよ。」
「...ああ。」
ことりに言われて、柚希は脱衣所に向かった。
その際にバスタオルとスウェットを手渡す。
脱衣所に柚希が入って行ったのを見て、ことりはほっと息を吐いた。
「ちょっと、ことり!」
それを確認した瞬間、母親が彼女に詰め寄る。
「どうするつもりなの?バレちゃうんじゃないの?」
「大丈夫だよ、たぶん。」
「だってアンタ、一日中男装してなきゃ駄目になるのよ?」
「あ。」
あまり深くまで考えていなかったことりは、今更になってどうしようと深く悩んだ。
お風呂に入ってからも男装しなければならない。
「な、なんとかなるでしょ。お母さんこそ、バレないように気をつけてよね。」
お兄ちゃんのためなんだから、と付け足すとわかってるわよと母親は言う。
「部屋は陽君の部屋使いなさいね、掃除しておいたから。」
「え?一緒な部屋?」
「当たり前じゃないの。ほかに部屋余ってないんだから。」
まさか、柚希と同室で寝るなんて考えてなかった。
意識すればするほどドキドキしてくる心臓を落ち着かせる。
ことりは頷くしかなかった。