男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
階段をあがり、すぐに左の部屋のドアノブを開けた
。向かいの部屋は双子の妹の部屋だろうか。
がちゃり、
中に入ると、陽らしい部屋だった。
机の上には無造作に学校の教科書が積み重ねられていて、
仕事で学校に行けない分、時間があるときに必死で勉強していたのだろう。
適当な場所に腰をおろすと、リモコンが目に入る。
テレビをつければ、丁度このあいだ収録していた歌番組が流れていた。
陽は、いつでもメンバーの中心で輝いている。
それを羨ましいとも何度も思ったし、妬ましくも思った。
けれど、陽が人一倍努力しているのを知っているため、何も言えない。
自分は、彼を認めているのだ。
ぼうっとテレビを見ていると、風呂からあがった陽が部屋にやってきた。
(い、急いで髪を乾かしてウィッグかぶったんだけど、大丈夫だよね...)
ことりは内心ドキドキしていたが、
悟られないように笑顔を張り付けて持ってきた飲み物を差し出す。
「あ、このあいだの収録の...。」
「ああ。やはり、お前はすごいな。」
「え?」
まさか、褒められるとは思っていなかったことりは驚いた。
「急にどうしたんだよ。」
「別に...。」
彼が何を考えているのかわからない。
ことりは首をかしげた。
「俺なんか、まだまだだよ。メンバーの足を引っ張ってばっかりで...、」
「最近は、そうだな。」
柚希はフォローを入れず、素直に肯定した。
分かってはいたが、少し傷つく。
「話変わるけど、柚希はドラマに出ないのか?」
「出ない。陽こそどうするんだ?」
「俺は、まだ決めてない。」
少しもったいない気がするが、柚希ははっきりと出ないと言った。
彼なりの考えがあるのだろう。