男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
しばらくして、親戚の人や
芸能事務所の関係者の人たちが集まってくる。
「スカイ」のメンバーには知らせていないらしい。
明日は収録で、しかも近々コンサートがあるために、
混乱させたくない為に今は言わないと言っていた。
親戚のおばさんはことりの母親の肩を抱いて、
大丈夫、大丈夫と繰り返し言う。
状況をいまいち理解できていないことりは、
ただぼうっとしているしかなかった。
数時間かけて手術が行われた。
手術がやっと終わったのか、
ランプが消えた。
中から手術を行った医者がでてくる。
「陽は、陽は無事なんですか!」
「手術は成功しましたが・・・、」
医者は目を伏せ、残念そうに続ける。
「今後、目を覚まさないかもしれません。」
「ど、どういうことなんですか!」
親戚や、事務所の関係者は医者に詰め寄る。
「地面に頭を強く叩きつけた時に受けた衝撃が大きく、
脳に損傷を与えてしまった為に、目を覚まさないかもしれないということです。
まだ、覚まさないと決まったわけではありません。
外傷は奇跡的にそれほど酷くはありませんでした。
しばらく様子を見ましょう。」
医師はできるだけ言葉を選び、優しく説明した。
刹那、母親や親戚は再び涙を流し始める。
「・・・困ったな。」
ふいに、事務所の関係者がつぶやいた。
「明日の収録、陽はセンターで歌うんだぞ。
どうするんだ。」
小声で話してる関係者を見て、ことりは茫然とした。
こんな時にまで仕事の話をしている。
結局は、売り物としか見ていない。
泣き崩れる母親と、芸能関係者を見比べて
ことりはどうしてかわからないが腹が立った。