男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-


「見間違いじゃないのか?」

「絶対いたよ!」

「いたとしても、何処かに行ってしまっただろう。見当たらない。」

また出てきたら退治すればいい、と言い柚希は電気を消そうとする。

それを慌ててことりが止めた。

「ゆ、柚希っ!」

「なんだ。」

そろそろ寝ないと、明日がキツい。と彼は付け足す。

「でも、ゴキ○リが、」

「...陽、お前可笑しいぞ?」

虫は平気だったのに、今更怖がるなんて可笑しい。

先ほどの悲鳴も女みたいだった。

柚希は、じっとことりを見た。彼女は視線を逸らす。

「陽、俺に何か隠してないか?」

それは、郁にも言われた言葉だった。

ギクリと肩が震えた。

まだ、正体をバラすわけにはいかないのだ。

「何もないよ、も、もう寝よう!」

「ゴキブリは?」

「だ、だ、大丈夫。うん、大丈夫。」

相当無理をしているように見えた。

まるで自分に大丈夫だと言い聞かせるように呟く彼に、柚希は彼に近寄った。

ぎし、

ベッドに膝をかけ、身を乗り出してことりを見る。



「な、なんだよ。」

「...。」


最近、陽の様子が可笑しいとは思っていた。

急にダンスが下手になったり、曲をド忘れしたり。

自分に対しての態度も変わった。


まるで、陽が別人になったかのような素振りなのだ。


「陽、まさかお前、記憶喪失なのか?」

「...は?」

その言葉に、ことりは呆気にとられた。
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