男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「...。」
「と、飛んできた!こっちに飛んできた!」
悲鳴に近い声をあげれば柚希は訝しげな顔を見せた。
こうして涙目で自分に抱きついている陽を見ると、女にしか見えない。
(何故だ?)
陽は女だったのか?いや、そんな馬鹿な話があるわけない。
(じゃあどうして。)
「いい加減離れろ。」
「あっ、ご、ごめん///」
我に返ったことりはばっと柚希から離れて照れたように顔を赤く染めた。
その反応を見て、心臓が大きく跳ねる。
可愛いと思ってしまった。...男、相手に。
もしかして、自分はそっちの気があるのだろうか。
だから、陽の事が女にしか見えないのだろうか。
変な勘違いをし始めている柚希を知る由もなく、
ことりは一階から殺虫剤を取ってくる!と言い部屋から出ようとした。
「あ、待て。」
刹那、ぐい、と柚希に手を引かれてバランスを崩す。
床には布団が敷いてあったために、シーツに足を滑らせて転びそうになった。
それを慌てて柚希が支えて、自分の元に引き寄せる。
真正面から抱き合う形になり、ことりはさらに顔を真っ赤にさせた。
「なっ、なんだよ///」
「いや、ドアの近くにゴキブリが居たから。」
「!」
ああ、ドアに近づく前でよかった。
ことりは柚希に礼をいい、離れようとしたが彼は離そうとはしない。
逆に、抱きしめる腕に力がこめられていた。
(えっ、な、なんで!?)
さっきとは違う意味でパニックを起こすことりを見て、
柚希はもどかしそうな表情を見せた。
(俺は、陽が好きなのかもしれない)
「ゆ、柚希っ!」
苦しそうに自分の名前を呼ぶ陽に、愛しさがこみ上げてくる自分は可笑しいのだろう。
柚希は理解した。
彼が可笑しく見えたのは、彼に惹かれている自分がいたからだ。