男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「...悪い。」
柚希はやっとことりを解放すると、一言謝った。
こんな時に、自分の気持ちに気づいてしまうなんて...
後悔が押し寄せてくる。
不思議そうな表情を見せることりから、視線を逸らした。
*
それから、柚希が先ほどと同じように雑誌を振り下ろし今度こそゴキブリを仕留めると
ことりはほっとしたように息を吐いた。
「ありがとう。」
「あ、ああ...。」
それをゴミ箱に雑誌ごと捨てて、一段落したのだが、
すっかり目が覚めてしまった。
ことりはもう一度ベッドに戻るが寝れない。
目を綴じると、先ほど柚希が自分を抱きしめた光景が浮かんでしまう。
更に意識をしてしまい、今日はもう寝れないと感じた。
それは柚希も同じなようで、一向に寝息は聞こえてこない。
「...陽。」
「え、あ、何?」
突然声をかけられて、どもりながらも返事をする。
「お前は何も変わってはなかった。」
「あ、う、うん...。」
「変わったのは、俺の方だ。」
「え?そうなの?」
「ああ...。」
依然の柚希を知らないことりは、驚いたように聞き返した。
なんだか意外だなあ、と思いつつ話に耳を傾ける。