男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「...俺が、木村と住み始めたのは3年前からだ。」
「3年前?」
「ああ...スカイのメンバーになる前に、俺がモデルをしていたのは知っているだろう。」
本当は知らなかったが、陽は知っているらしい。
話を合わせるべく、ことりは頷いた。
「大阪でのファッションショーで、急に木村に声をかけられたんだ。」
「...スカウト?」
「ああ。事務所の名前を聞いたとき、有名だったから何も考えず移籍した。」
「そ、そうなんだ...。」
柚希が自分の事を話してくれている。
それだけで嬉しくなった。
自分は信用されている、と自惚れしてしまう。
「しかし、主な活動場所が東京の為に俺は上京するしかなかった。
でも、事務所の寮が丁度満員で木村と一緒に住むことになったんだ。」
「そうだったんだ...何も隠すようなことじゃないじゃん。
っていうか、柚希って大阪出身だったの?」
「ああ。陽なら知っていると思っていた。」
「いや、あー...忘れてた。」
曖昧な返事をして、笑ってごまかすと柚希はフっと笑った。
「...丁度2年前、木村にスカイのオーディションに誘われた時には驚いた。
俺はモデルしかしていなかったからな。」
「へえ、意外。柚希なら俳優とかも似合いそうなのに。」
「絶対に、俳優にはならない。」
「え?」
声音が低く、冷たいものに変わった。
何か理由があるらしいが、ことりは深入りは良くないと考えて追及するのをやめる。
「陽は、どうしてスカイに入ったんだ?」
こんな話、ほかのメンバーともしたことがなかったな、と柚希は考える。
2年もともに活動しているのにメンバーの事をあまり知らない。
「俺は...。」
どうしてだろう。
ことりはふと考える。
二年前、ずっとドラマの子役やモデルをしていた陽が
急にアイドルになると言い出した時の事を思いだした。