男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
――――2年前。
「母さん、俺、アイドルになるよ。」
夕飯を食べていた時に、突然陽が口にした言葉に母親は驚く。
「え?どうして?今でも十分頑張ってるじゃないの。」
「アイドルになりたいんだ。」
ことりは、ふと陽に視線を向けた。
彼の顔は、どう見てもアイドルになりたいと言っている顔じゃない。
少し強張ったような表情で無理やり笑顔を張り付けている。
ことりは双子のためか、なんとなく彼の気持ちが分かった。
(逃げ出したかったんだろうな)
子役や、モデルをしている陽は何かと母親に期待されていた。
それが嫌だったのだろう。
自分のペースで努力をしたいのに、何かと自分がやっている仕事に口を出されるのが
耐え切れなくなった。
だから、今までしてきた仕事とは全く違うアイドルを選んだのだ。
母親は、陽が芸能活動をやめるなんて考えられないらしく
一度陽が泣いて芸能活動をやめたい!と言い出した時に
こっぴどく怒っていたことを知っている。
自分が言い出したことは最後までやりなさい、と言っていた。
はじめ、陽は歌やダンスがとてつもなく下手だった。
それは、陽自身も自覚していることだった。
もしかして、それをわかっていて、オーディションに落ちると思い
スカイのそれに応募したのかもしれない。
*
「よく、覚えてないや。」
ことりは、柚希にそう言った。
「そうか。」
でも、陽はスカイになってから変わっていった。
もちろん、いい方向に。
自分の仕事に誇りを持つようになり堂々としていた。
(きっと、お兄ちゃんは変わりたかったんだろうな)
そう考えると、妙に共感してしまう自分がいることに気づく。