男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-


――――2年前。

「母さん、俺、アイドルになるよ。」

夕飯を食べていた時に、突然陽が口にした言葉に母親は驚く。

「え?どうして?今でも十分頑張ってるじゃないの。」

「アイドルになりたいんだ。」

ことりは、ふと陽に視線を向けた。

彼の顔は、どう見てもアイドルになりたいと言っている顔じゃない。

少し強張ったような表情で無理やり笑顔を張り付けている。

ことりは双子のためか、なんとなく彼の気持ちが分かった。


(逃げ出したかったんだろうな)

子役や、モデルをしている陽は何かと母親に期待されていた。

それが嫌だったのだろう。

自分のペースで努力をしたいのに、何かと自分がやっている仕事に口を出されるのが

耐え切れなくなった。

だから、今までしてきた仕事とは全く違うアイドルを選んだのだ。

母親は、陽が芸能活動をやめるなんて考えられないらしく

一度陽が泣いて芸能活動をやめたい!と言い出した時に

こっぴどく怒っていたことを知っている。

自分が言い出したことは最後までやりなさい、と言っていた。


はじめ、陽は歌やダンスがとてつもなく下手だった。

それは、陽自身も自覚していることだった。

もしかして、それをわかっていて、オーディションに落ちると思い

スカイのそれに応募したのかもしれない。







「よく、覚えてないや。」

ことりは、柚希にそう言った。

「そうか。」

でも、陽はスカイになってから変わっていった。

もちろん、いい方向に。

自分の仕事に誇りを持つようになり堂々としていた。


(きっと、お兄ちゃんは変わりたかったんだろうな)


そう考えると、妙に共感してしまう自分がいることに気づく。




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