男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
その後、陽は病室へとうつされた。
手術後、初めて見る兄の顔にことりは驚きを隠せない。
「っ、・・・。」
無意識に、ことりは涙を流していた。
今まで感じたことのなかった後悔が押し寄せてくる。
ずっと陽は自分と仲良くしようとしてくれていたのに、
自分は母親に気に入られている陽に嫉妬して、
冷たく接していた。
もしかして、こうなってしまったのは自分のせいかもしれない。
ことりはそう感じた。
「お兄ちゃん、」
死んだように眠っている兄に声をかける。
「起きてよ・・・。」
ぴくりともしない兄。
失って、初めて大切だと気づいた。
「ごめんなさい・・・。」
溢れ出した涙は止まることはない。
ぽろぽろと落ちては、床を濡らしていく。
母親も、つられて泣いた。
「・・・ことり、」
涙声で、ことりの名前を呼ぶ。
彼女は母親に視線を向けた。
「っ、ごめんね。
お母さんが、悪いわね。」
陽が一番家族関係を気にしていた。
悩みを相談せず、一人で抱え込んでいた。
昔、陽からことりを大事にしてあげてと頼まれたこともあった。
「今まで、ことりを気にしてあげられてなかった。
陽君は、きっと、ことりを大事にしてあげてって言いたかったのね。」
ごめん、ごめんね。
母親はことりを力強く抱きしめた。
「お母さんがしっかりしないから、陽君は自分を犠牲にしてまで
気づかせてくれたのかもしれないわ。」
ぽつりと母親がつぶやいた言葉が、ことりの胸に深く刺さった。
眠っている陽の表情は、
ことりと母親の蟠り(わだかまり)が解けたのを見て
微笑んでいるようだった。