男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
__好きかもしれない。
それは、どっちに向けられた言葉なんだろう。
お兄ちゃん?
それとも…、
そこまで考えて、ことりは首を横に振った。
いや、そんなことあるわけない。
だって私は陽のふりをしているのだから。
郁は、お兄ちゃんが好きなんだ。
ことりは何も言わず、ただ目の前の彼を見る。
彼は顔をあげると、何か言いたいような表情を見せたがすぐにいつものように戻る。
「…ごめん。聞かなかった事にしてくれ。」
「…うん。」
「そっけない態度を取っていて、悪かった…全部…陽の言う通りだ。寂しかった。」
なんだか郁が可愛く思えた。
ことりは思わず微笑む。
「…わた…、俺も、寂しかった。」
本音を言えば、郁は少し驚いてから嬉しそうな表情を見せる。
胸が温かくなるのを感じた。
「…陽が、嫌いになったわけじゃないから。」
「よかった…、知らない間に何かして、嫌われたのかと思ってた。」
「そんなわけないだろ。」
本当に、よかった。ことりはほっとした。
郁は立ち上がると建物の影になっている場所まで移動すると座り込んだ。
「授業は?」
「とっくに始まってる。サボらないか?」
「…うん。」
ことりは郁の隣まで行くと、腰をおろす。
不思議と緊張はなく、落ち着くことができた。