男装少女-兄の代わりになった双子の妹の物語-
「陽はドラマどうする?」
「…出ない事に決めた。」
「そうか…」
「コンサート、成功させたいし、俺頑張るよ。」
「そうだな…最近の陽は、特に頑張らなきゃな。」
郁は急にダンスが下手になった理由や、最近の陽が可笑しい事には触れてこなかった。
それが嬉しくもあり、もどかしい感じがする。
もし、郁が正体を知ったらどう思うんだろう。
楓は認めてくれた、けど…
「陽?」
考えこんでいると、郁が顔を覗き込んでくる。
「!」
急な事に驚き、ばっと離れれば郁は声をだして笑う。
「っはは!びっくりしすぎ。」
なんだか今日の彼は少し違う気がした。表情も、声も、いつもより明るい。
綺麗な微笑みを向けられると、今まで感じた事がない感情が胸いっぱいに広がる。
「…ちょっと、考え事してて。」
「言える事なら、言えよ。」
何時でも相談にのるから、と優しい言葉をかけてくれる郁を見ていると、胸が苦しくなる。
彼が見ているのは陽で、私は陽であり陽じゃない。
正体を言ってしまいたいと思ったのは、郁が初めてだった。