セブンデイズ・リミテッド(仮)
黒い……霧のような生き物。
定まった形を持たないそれは、体の一部を切り離し、扉を塞ぐ体と、こちらに向かってくる体とに分かれ始めた。
じり、じりっ……。
ゆっくりだが、そいつはこっちに切迫って来る。本能的に、足が後退した。アレは……オレたちを殺す。そう感じ取れるほど、それからは殺気が放たれていた。
「―――みみ、かざり。はやく。しないと」
少女はまた、同じことを言う。
訳がわからないっ……。とにかく逃げようと、少女の手を引きながら近くの扉へ走る。その間にも、少女は同じ言葉を繰り返すばかり。みみかざり、はやく、と。
「今は逃げるんだ! アレを見ただろ!?」
「――――みみ、かざり。はやく。しないと」
「逃げるのが先だ! 裏から出れればいいけど……」
細い廊下を走ると、中庭へ出た。だけど、ここからでは外へと逃げられない。奥にはまだ、道が続いている。逃げるには、この先へ行くしかなさそうだ。
「――――やり、かた」
「今度は何っ?」
「――――わすれ、たの?」
そう言うと、少女は走るのを止めた。
やり方? 忘れた?
少女が何を言いたいのかわからない。でもここにいたら、アレがオレたちを襲うのは確実だ。
少女の手を引き、再び走ろうと促(うなが)すも、少女はそれを拒んだ。
「なんで行かないんだよ!? わからないけど、アレは絶対危険だ! 逃げるにこしたことっ」
「にげても、むだ」
「!?……なんでわかるんだ?」
「しってる、から。だから、はやく」
「……オレに、何をしろって言うんだ?」
向かい合うと、少女は首を傾げながら、
「わすれ、たの?」
と、また繰り返した。