記憶の中で…


「ん…?何だあれは。何か落ちてるな。」

そう言って、それを避けて通ろうとした時だった。

「子どもだ!」

急いで車を止め、生きてるかどうか確かめた。

大丈夫。息はある。気を失っているだけだ。

車から降りて近づく志保に、救急車を呼ぶように伝え、子どもの頬を叩いて、「しっかりしろ!!」と声をかけた。

その時、志保は救急車を呼ぶどころか、その子の事を「ナツキ!」と呼んだ。

「あなた、早く!ナツキを病院に連れて行かなきゃ。あの県境にある大学病院に行きましょう。」

それまで虚ろな眼差しで、ブツブツ言っていた志保が、急に意識が戻ったようにテキパキと行動する様子に、正気に戻ったように感じた。

でも、それは表面上だけで、ちっとも正気ではなかった。

病院でも変な事を口走っていたんだ。子どもの名前は一ノ瀬夏樹で、私たちはこの子の両親だと。階段から落ちて怪我をしたと言った。




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