記憶の中で…
そしたら君はどうなる?施設へ入れるのか?
名前も『ナツキ』とだけしか答えない、親の顔も歳もわからない君を預ける事はできなかった。
それなら、子どもを亡くしたばかりの私たちだったら、幸せにしてやる事ができると信じていた。
だが、それは今から思うと思い上がりだった。記憶をなくした君にとっては、辛く苦しいものだっただろう。日本とは全く違う文化、環境、そして何より言葉が通じないという事が、君を追い詰め、苦しめる事になってしまった。
日本にいる間は、少し話もしてくれていたのに、ドイツへ行くとそれもなくなり、表情も固いものとなっていった。
「そんな君を私たちはどう接していいのかわからなくて…。でも本当の息子以上に愛情を注いできたつもりだ。」
「う…嘘だ。いつもよそよそしくて、愛してる振りをしてただけだ。心の底から愛してなんかいなかっただろう。本当の息子じゃないから…。」