記憶の中で…
「ん?ああ、ドイツから帰国子女だと。九月から通う事になるよ。で、待たせて悪かったな。質問か?」
「あ、うん。え…とね。」
学校からの帰り道、さっき出会った彼の事を思い出していた。
夏樹とよく似て、切れ長の大きな目だったなあ。彼が夏樹だったらいいのに…。はは…あるわけないか。
渇いた笑みが溢れた。
夏樹は幼なじみの男の子。
生まれた時から五歳まで一緒に育った。
家族ぐるみの付き合いだったけれど、ある日を境に行方不明になってしまった。
私のせいでもある事にずっと負い目を感じていて、夏樹の両親には申し訳なさで一杯だった。
夏休みが明けて二学期初日。
あの時出会った彼が転校してきた。
「一ノ瀬夏樹です。」
挨拶をした彼を見てクラスの女子が騒ぎ出す。
端正な佇まいに溜め息が漏れる。
彼の立ち居振舞いは実にスマートで、これも海外に長期滞在していたせいなのか…。
もちろん家庭環境もあるだろうが。