記憶の中で…
「今度は挨拶じゃなくて…恋人の…キス…したい。駄目?」
真っ赤になりながら遠慮がちに言うナツキの顔は、まるでおねだりをする小さな子供みたい。
「…いいよ。」
ナツキと視線が絡み合う。
切れ長の大きな目。
その瞳の中には私しか写ってなくて、ゆっくりと顔が近づく。
ほんの少し右に傾いた顔がすぐ目の前に迫って、目を閉じた時――
は…はっくしょん!
「わり。ユキの髪が鼻掠めてくしゃみ出ちゃった。」
プー―ッ、アーハハハッ、クスクスクス。
甘い雰囲気もどこかに吹っ飛んでしまって、笑いが込み上げてきた。
二人で可笑しくて顔を見合わせて笑った。
「帰ろ。」
「うん。」
どちらからともなく手を繋いで学校を出た。