記憶の中で…
「それは…。」
言いにくそうな雰囲気に、「あの…私、席外しましょうか?」と言った。
ナツキのお父さんは、「いや、いい。君にも聞いてもらおう。」と話始めた。
「あの子は五歳の時に階段から落ちて、今回のように気を失った事があるんです。その時に一度記憶をなくしています。辛うじて名前がナツキという事だけは覚えてましたが…。」
「じゃあ、その記憶が戻った事は?」
「いえ、ありません。」
「そうですか。」
看護師さんはしばらく考えた後、言葉を続けた。
「あのね、一ノ瀬さん。一度なくした記憶に、経験した事のないことや、知らない名前を記憶させるなんて事は、誰かが故意に思い込ませたりしないとできないんですよ。」
「え?」
「つまり、彼は昔の記憶が戻りつつあるのではないかと…。」
「そんな筈…そんな事ある訳がないじゃないですか!!あの子は一ノ瀬夏樹です。何なら調べてもらっても構いません。間違いなく私の息子です。」