ただ一人の魔法使い



フーちゃんは、危険だと判断したのか、私の頭の上から離れ、天井近くまで浮上してプカプカと浮かんでいた。

…そして


『弥一にぃの……バカぁぁ!!』


―バンッ


私の手から黒い球体は離れ

弥一にぃの体に当たり、吸収される様に弥一にぃの体の中に消えた。


「ぅが……っ」


フラフラとする弥一にぃ。

そして、ドサリと壁により掛かる様にして、倒れた。


〈命中…〉


『…悪夢を見てなさい…』


…弥一にいのアホ。

せっかくの制服が、台なしじゃん…。


「く…蜘蛛(クモ)が……蜘蛛がぁあ…」


能力で見せられている蜘蛛の幻覚に、弥一にぃはうなされる。


〈なんか…可哀相に見えてきた…〉


フーちゃんは、ふわりと私の肩に乗ると、弥一にぃを哀れな表情で見る。

私はそれを尻目に、


『《陽光》』


制服を乾かす、暖かな光の能力を使った。





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