御曹司の溺愛エスコート
「桜、なにを飲む?」


蒼真が部屋の隅にあるバーカウンターの前に立っている。


「お水をお願いします」


蒼真は何か言いたそうな表情をしたが、黙って冷えたミネラルウォーターをグラスに注いで桜に渡す。


「ありがとうございます」


水を口にして、初めて酷く喉が渇いていたことに気が付いた。
喉の渇きが潤い、ホッとして部屋を見渡した。


懐かしい部屋……。
この屋敷で私は4年間過ごした。


蒼真はバーカウンターに戻り、自分用に何かをグラスに注いでいる。


その時、カチッと言う音が聞こえた。


ぼんやり立っていた桜はなにげなくその音の方向を見た。
伯母がタバコに火を付けるところを目にしてしまい、急に呼吸が苦しくなる。身体が震え、持っていたグラスが手から滑り落ちた。


パリーン!!!


「桜?」


グラスが割れる音で蒼真が振り返り、両手を身体に回して小刻みに震えている桜に驚く。


「ご、ごめん……なさい……」


ちゃんと言いたいのに、声が震えてかすれる。

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