御曹司の溺愛エスコート
車に戻った桜は顔を曇らせ黙ったままだ。


リサのケガと亡き祖母を思うと、胸をえぐられるように痛かった。


「桜」


名前を呼ぶと桜は甘えるように自分から蒼真の肩に頭を乗せた。


10分後、リムジンはアパートに到着した。
蒼真は先に下りようとする桜の肩に手を伸ばす。


「桜、見ない方が良いんじゃないか?」


今落ち込んでいる桜に見せたくない。


桜は小さく首を振った。


「大丈夫……」


蒼真が下りるのを待って、桜はアパートの中へ入った。
狭い階段を上がり、部屋のドアが見えてきた。


ここを慌てて出たのは昨晩……。
あの時は生きた心地がしなかった。
まさか、リサがケガをしていたなんて思いもよらなくて……。
私が見つけていれば早く治療を受けられたのに。


ドアに手をかけると「ぎぃーっ」と音をたてて開いた。
こそっとドアの隙間から覗いてから、大きく開けて中へ入る。


しーんと静まり返った部屋は昨日のまま乱雑に散らかっている。


目を向ける先はクリスタルの置物達の場所。


全部……無くなっちゃった……。


台へ一歩近づくと、ヒールに当たるものがあった。
桜はしゃがみ、それを手にした。

< 108 / 356 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop