御曹司の溺愛エスコート
「恋人のハリーは? もちろん別れるんだよな」

「ハ、ハリーは……」


自分が働く書店の店主だと言い出せず、蒼真を今まで見ていた瞳は下を向いてしまった。


従順に唇を奪われておきながら、恋人のことを考えるのか……。


「さあ、行こう」


握っていた桜の手を自分のコートのポケットに入れた。


蒼真兄さまの手、温かい……。


自分を包んでくれるその手が桜にはありがたかった。



再び車に乗り込むと桜は運転手に場所を教えた。
10分後、小さな書店の前に着いた。


その書店は医学の専門書店だった。
蒼真は店の中へ入ると、本棚に視線を動かす。


「桜……ここは素晴らしいね……」


欲しかった本もここなら見つかりそうだ。


「蒼真兄さまは本を見ていてね。私は、ハ、オーナーに話してくる」


危うくハリーと言いそうになった。


「私も行くよ。本を探すのはあとでいい」


蒼真は本棚から抜き取った医学書を元に戻した。
桜は諦め、奥にいるハリーの元へ足を進めた。

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