御曹司の溺愛エスコート
バスルームを出ると蒼真はいなかった。もちろんいて欲しくなかったが。


ふとベッドの上に光る物を見つけた。
桜の好きな小さなクリスタル製の動物だった。


「コアラ……」


それは手のひらにコロンと乗る小さなクリスタル製の置物はコアラだった。


3年前の事故の時、蒼真はオーストラリアに出張していた。


お土産は何がいい?と聞かれ「コアラ」と答えた。


あの時、蒼真は笑って「本物は持ってこられないな」と言った。


過去を思い出してしまった桜の目から、せっかく止まった涙が再び溢れ出す。


小さなコアラを握り、力なくベッドの上に倒れこむ。


アメリカのアパートメントに飾られている数点のクリスタル製の置物はすべて蒼真のプレゼントだ。


あの時のお土産を置いて行くなんてずるい……。


時差ぼけのせいか、蒼真のせいか、その後桜に眠気は訪れなかった。



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