御曹司の溺愛エスコート
懐かしむように周りの景色を見ながら歩いている桜様は女の私から見ても可愛らしい方だ。あの長い髪を切ってしまったのは残念に思う。絹糸のようなライトブラウンの髪は蒼真様のお気に入りで、いつも愛しむように梳いていた。


「くしょん」


桜は不意に寒気を感じ、くしゃみをした。


もう秋も終わりに近い。薄手のカーディガンでは寒かったようだ。


「大丈夫ですか?」

「はい。暖かいお茶、芳乃さんに頼もうかな」


桜は真琴ににっこり微笑んだ。


「ええ。きっともう用意して待っていますよ」


屋敷に戻ると、玄関に南条が待っていた。


「桜様、お帰りなさいませ」


南条は桜を見て安堵したようだ。


「心配かけてごめんなさい」


桜が南条に頭を下げた時、階上から蒼真が下りて来た。


「どこかへ行ってたのか?」


蒼真の瞳が桜の持っているコンビニの袋をチラッと見る。


「……公園へ」


手の震えが止まらないのは寒さのせいか、蒼真兄さまのせいなのか。


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