御曹司の溺愛エスコート
「桜様、お食事の用意が出来ておりますよ。そのお荷物はわたくしがお部屋に」


南条に手を差し出されて渡そうとしたが、手の震えで袋を落としてしまった。


ビニール袋から出たのは6本のサランラップ。


「そんな物買ってどうするんだ?」


落ちたラップを見て蒼真が言う言葉は、桜には皮肉めいて聞こえた。


「ひ、必要だからに決まっています」


ラップを乱暴に拾うと、部屋に向かった。


「桜様!」


南条の声にも桜は足を止めなかった。


その後姿を見ていた南条は心がちくりと痛みを感じる。


桜はこの屋敷に来る12歳までお嬢様として何不自由なく過ごしていた。両親の事故が桜の人生を狂わせたのだ。交通事故の加害者側だった為、相手に全財産を奪われてしまった。秋月夫妻は桜を助けずに、弁護士の言いなりだった。その時、蒼真と真琴はイギリスに留学していた。


蒼真がいればなんとか桜を助けていただろう。


伯父の家に桜は引き取られ、半年後にふたりは留学先から帰国した。


大人しく優しい性格の秋月家の次男、望は桜を可愛がっていた。桜も優しい望に懐いていた。だが、蒼真が帰ってきた時から、桜の生活の中心は変わっていった。


面白くないのは望の双子の妹琴美(ことみ)だった。秋月家の兄弟ふたりが妹の自分よりも、桜を大切にしたからだ。

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