これが、あれか?
鞄だって
ほんとは持たなくてもいい
野口がそう言ったような気がして、
ちょっと切なくなる。
野口は、私たちより1つ年上だ。
理由は、 出席日数が足りなかったから。
出席日数が足りなかった理由は、
1年の時に
強姦されてしまった心の傷、と
妊娠して中絶を拒んだ野口と
その両親との言い合いによるストレス。
結局中絶した野口は、
ふさぎこんだらしい。
その時はまだ私たちは中学生で、
野口のことなんか知らなかった。
けれど
私たちがこの高校に入学して、
野口もなんとか
学校に通えるようになって。
なぜか私と橋野は
野口と意気投合した。
そして、
当時野口にベタ惚れだった浅間も
おまけで仲良くなった、というわけ。
野口は多くを語らなかった。
自分のことも、
相手のことも、
中絶した、その後の体調のことも。
ただ、私たちに
ぽろっと、口からこぼれたとでもいうように
ある日突然話し始めた。
強姦…いわゆるレイプされたこと。
妊娠したこと。
中絶はどうしても嫌だったこと。
でも結局おろしてしまったこと。
それだけ言って後はいつも通り
いたずらっ子のような笑みを浮かべ
帰ろっかと明るく言った。
もう桜が散り始めた頃だった。