赤道直下
30万円

じゃらじゃらじゃらじゃら
もし、今私の目の前にひろげられた"これ"が30枚の紙幣だったらどんなに素敵だろう、楽だろう。

しかし、私の目の前にひろげられた"これ"は紛れもなく、(まさしく紛れもないわ)30万枚の一円玉だった。

―今日は珍しく、私は伯父の経営する骨董品屋を手伝っていたの。

珍しく、っていうのは、この骨董品屋に私が小さい頃からある、つまり売れてない絵画があるんだけどね、その絵がいわゆる抽象画ってやつで、気持ち悪くて気持ち悪くて。
私、昔からその絵がこわいの。

で、今日、このご老人がその気持ち悪い絵を、30万円で、一円玉30万枚で買うって言うからもう大変!
ハイテクなレジのない当店では全て"手"で勘定よ!

「ひぃ、ふぅ、みぃ…」

家族総出で計りをつかったりなんやかんや頑張って、いまやっと10万円。

パパが言うには法律で、こんなにたくさんの硬貨でのお支払いは断ってもいいらしいんだけど、伯父さんは信頼を損ないたくないって。
まいっちゃうね。

もう大分目が疲れて、私、休憩ついでにその気持ち悪い絵を初めてまじまじと見てみた。

絵の具が禍々しい色合いで何色も何色も重ねられていて、やっぱり気持ち悪い。

……あれ?
よくみると、厚く塗られた絵の具の上に、見覚えのある形が並んでいる。
絵の具の乾く前に押し付けたようで、でこぼこしている。

「あ。」

思わず声をあげた。

わかっちゃった。私。

お店の端っこの椅子に腰掛けるご老人に目を向ければ、笑っているように見える。

私は一円玉の山の所に戻って気の遠くなる作業を再開した。

嘘。全然苦にならないわ。だって、この一円玉、よくみると絵の具が着いていて面白いんだもの!


<30万円>

< 6 / 11 >

この作品をシェア

pagetop