赤道直下
地獄行き

右手のほうに美しい庭園がひろがる、のが見える気がした。

実際は右側に高い高い石造りの塀があるだけだった。

どうも、この塀は天国と地獄を隔てているようだ。

おかしい。

僕が知ってるのと違う。

天国は地獄の上にあって、仏様が蜘蛛の糸を垂らしてくださらないと、極楽には行けないんじゃないっけ。

しかし僕が今いるここは、天国と地獄は隣り合わせで、間にある塀にぽっかりあいた小さな小さな穴をくぐれば天国に行ける。
…まぁ、穴が小さすぎるのでとてもくぐれないのだが。

おかしいな、僕は日本人だから、針の山を通って、血の海に落とされるって覚悟してたっていうのに、そんな、話が違うじゃないか。

火山は絶えず噴火している。


困った。
僕はこちらの地獄では何をするか聞いたことがない。

覚悟なんてない。

恐い、怖い。

広がる恐ろしい光景と、絶えない火山が噴火する轟音に、思わず僕は目をつぶって耳をふさいだ。

僕は悪い人間だ。
だからここに来た。
生きている間にした悪事の罰は、死後絶対に受けなければならない。

知ってる。

だから僕はそれを信じて、悪事を働いたんじゃないか。

なのに、聞いてない。
こんな…。


…かすかになっていた轟音が聞こえない。

ふさいでいた耳をすましても、沈黙がひろがっている。

次、僕が目をひらいたときには、真っ暗だった。

何も聞こえなかった。

なにも考えちゃいなかった。

真っ暗闇のなかで、僕の意識は消えた。



僕がこれが正しい『死』だ、と理解するのは多分来世でも無理だろう。


<地獄行き>

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