手の届く距離で
第6節.香月
高校に入学してからすぐ、オレは居酒屋でバイトを始めていた。
地元の駅近くの『香月』という店だ。
結構昔馴染みのお客も多く、地元のヤクザや飲み屋のオネエさん達もよく利用する地元に親しまれている店だった。
ある日のこと。
三人連れのお客がお座敷席に入っていた。どうみても家族連れでは無い、おじさん、おばさん、若い女性。
飲み屋のママ、お客、若いスタッフといった感じだろうか。
その内の若い女性が席を立ち、座敷下に居たオレに声を掛けた。
「お手洗いはどこですか?」
「突き当たりの奥右側です。」
そんなに広い店内では無いが、お手洗いの場所は結構皆が聞いて行く。
日常の会話だ。
若い女性はお手洗いから戻るとそのまま座敷には上がらずまたオレに話し掛けて来た。
「かわいいね。」
淡々とそう言った。
「は、はぁ…」
おばちゃんのお客さんからは良く言われていたが、若いコにそう言われるとは思っていなかった。
「いくつなの?」
「15です。」
歳を聞かれて「若い!」と驚かれることも日常茶飯事だった。