手の届く距離で

そうこう考えている間に千恵の家の近くに着いてしまった…。

こんな時は時間の経つのがあっと言う間だ。

「みるく金時」のことなんか一度も思い出すことも無く、千恵の家のチャイムを押す自分の姿ばかり思い浮かべた。


でももう思い浮かべてはいられない。

ここはもう家の前だ!


「まだシミュレーションが済んでないょ…」


時間は刻一刻と過ぎて行く。


「どんどん迷惑になってしまう・・・もうそろそろ夕飯の時間だろうか・・・。」


家の前でうろうろと、決心が固まるまでどの位時間が経ってしまっただろうか。


「決めた。」
「押そう!」


そう心に決め、ドアの前の石段を昇る。
「一段、二段。」


一度大きく息を吸い込み、大きく息をついた。


そして正に指を上げるその時だった。


「じゃあお邪魔しました。」
「ガチャッ!」


「あっっ!?」
思わず声が出てしまった。


「わざわざありがとうね。またいつでもいらしてくださいねぇ。」


オレは出て来た青木と顔を合わせたが、千恵のお母さんらしき声の主にはまだ気付かれていないらしい。


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