手の届く距離で
第11節.
千恵が3組を覗いていた。
オレが気付いたことが分かると笑顔で手を振り、そのまま教室のオレの席の前まで来てくれた。
「純くん、なんか久しぶりだね。」
休む前と変わった様子も無く、ちょっとホッとした自分がいた。
「あぁ。そうだね。」
「今日は帰り、暇じゃ無いよね?」
「ん?今日はバンドのMTGがあるんだよね。」
「そっかぁ…」
「じゃあ明日は?」
「明日は学校終わったらソッコーバイト。ちょっと早く行かなくちゃいけなくて…。」
「そぅかぁ…」
「じゃあいつなら大丈夫?」
「そんなのまだわかんないよ。」
「・・・。」
「そうだよね!ごめんね。なんかしつこかったね。」
「じゃあまた声かけるね!」
「うん…。」
「でももし予定がわかったら教えて!」
「じゃあね!」
「あぁ…。」
そう言って千恵は3組の教室を小走りに出て行った。
最初の一瞬、そして最後の一瞬、後は顔を見れなかった。
いつに無く、いや、今までに無く千恵が予定を合わせ様としていたのはわかった。
ただ、二人で会いたく無かった。
でもあらためて気付きもしていた。
千恵と話しているだけで嬉しい自分が居ることに。