手の届く距離で
千恵と一緒に帰ることはあまり無く、遊びに行くことも無かった。
学校でスレ違っても、
特に話そうとは思わなかった。
だからと言う訳では無いが、よく電話はしていた。
同じ高校に通いながら、お互いのクラスのことを電話で話す。
「田中くんがさぁ、サキのことが好きで好きでたまらない!って言ってるのにサキにムシされてんの!
「ちょっと可愛そうになって来ちゃったよ(笑)」
千恵は色々話そうとしてくれたが、オレの返事は一言二言。
オレも話す努力はしていたつもりだが、
あまり言葉が出て来なかった。
はっきり言えば、電話をかけても無言の時間の方が長い。
そんな状態だから、
部活で疲れている千恵の寝息を電話口で聞いたのも、一度では無かった。
でも、寝息が相手なら言えたんだ。
「千恵。」
「好きだよ。」
何度でも。
いつも明るい千恵のことが 好き だった。