秋空
僕はがむしゃらに走り続けていた。

やっとコートが見えた。

対戦相手の女の子と二人でネットをはずしている姿が見えた。

(なんだか入りずらいな。)

そう思って、少しウロウロしていると、相手の女の子が出て行ったのでコートには愛花だけになった。

僕はすぐにコートに入ってゆっくりと愛花に近づいていく。

愛花はベンチに腰を下ろしてコート全体を眺めていた。

「愛花、惜しかったな。」

僕が声をかけるとビクッと反応して、こちらを振り向き、

「全然惜しくなかったよ。」

そう言いながら、愛花の顔はなんだか哀しい表情に変わっていく。

僕は訊くこうか聞くまいか悩んでいた言葉を口にした。

「今日調子悪かったよな。あれ、なんか原因あるのか。」

愛花は口を開こうとしたり閉じたりを繰り返していた。

「いや、言いたくないなら言わなくてもいいんだけど。」

しばらくの間ただ向かい合うだけの沈黙が続いた。

空気に耐えきれなくなった僕は、この場から離れようと思って、

「そろそろ戻ろうか。」

そう言うと僕は彼女に背を向けて歩き出そうとした。

その時[ザッ]とコートを踏みしめる音がして、僕はウェアを掴まれて、歩を進めるのを止めた。

(待って)

僕にはそう聞こえたような気がした。

「やっぱり聞いてほしい、ずっと言おうか迷ってた。だって辛かったんだもん。」

僕の嫌いな甘ったるい声。しかしこのときは嫌だとは思わなかった。

「うん、聴くよ。だから全部話してよ、僕は愛花の支えになりたいんだ。」

僕が振り向こうとすると、力一杯邪魔してきたので、僕は背を向けたまま話を聞き始めた。
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