秋空
愛花は僕の背中にずっしりと体を預け、腕を僕の首にかけた。

身長は愛花の方が高いので背負っているような状態になっていたただろう。

僕は倒れないように足に力を込めて支える。

ほんの数秒後には安定した。

それを確認してだろうか、愛花がついに口を開いた。

「本当は体調が悪いんじゃなくて緊張していたんだと思う。」

その言葉に僕は疑問に思った。

「でも愛花は一年生の試合の時も大して緊張していなかったと思うんだけど。」

僕からは見えなかったけど首を横に振っているような気がした。

「うん。あのときは緊張していなかったよ。でも今年は、私が部長になったじゃん。部長になった時から[私は負けちゃいけない]とか思っていたんだ。」

巻き付けていた腕の筋肉がしまって、手が強く握られている。

「なんでそう思ったんだ。」

「部長は一番強くなくちゃいけないイメージない。」

「別に僕は何とも思わないけど。」

実際僕は、一番強いから部長な訳ではないので、そんなこと思ったこともなかった。

「そうなんだ。でも私はそう思っていて、だから強く・・あろうと・・したんだ・・よ。」

声が震えている。

振り向いたら泣いているだろう。

振り向かせないようにしていた腕に一段と力がこもる。

「でも、うまく・・いかなくて・・試合でもミスが増えて、また・・緊張して、そして試合も・・負けちゃって----」

「もういいよ。十分・・・伝わったから。」

僕を振り向かせないように押さえつけていた腕の力がゆるんだ。

僕は振り向き彼女の姿をじっとみた。
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