秋空
彼女の目から涙がこぼれている。

それを必死に拭おうとしている彼女の姿は、いつもの男勝りな感じではなく、思春期にあるしおらしい女の子の姿だった。

不謹慎かもしれないが僕はこの女の子の姿がとても可愛いらしくて、見とれていた。

それと同時に、胸にドキドキとした気持ちを覚えた。

もしかしたら、このとき僕は彼女のことを本当に好きになったのかもしれない。

しばらく、愛花の姿を眺めていた。

僕は我に返って、彼女に近寄って、頬を伝う涙を指でさっと擦った。

愛花は涙を払ってもらったことが恥ずかしかったのか、手で顔を覆いかぶせた。

僕が戻ろうとすると顔を覆ったまま、

「顔が戻るまで待ってて。」

と言って、背中をあわせてきた。

僕は愛花が泣き止むまでそのまま数分を過ごした。

さらにしばらくして、顔を上げて、かぶせていた手をはずして歩き出した。

僕は支えが抜けて転びそうになったが、なんとか持ちこたえて、ついて行く。

僕の、

「大丈夫か。苦しかったらいつでも言えよ。絶対何とかしてやるから。」

の問いに、

「うん。ありがとう。」

僕たちは二人並んで通路を歩き、控え場所に向かった。
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