秋空
そろそろ一時間ぐらいがたっただろうか。山道も下りの半分まで来たぐらいだろう。

相変わらず植物について語りっぱなしの彼女と少しずつ歩いていく。

ふと、下に目線をやると水仙が一輪だけ斜面に咲いている。

その斜面は急で地面までの高さはざっと見て三メートル位だろうか。

僕は足を止める。

「どうかしましたか。」

足を止めてこっちを振り返る。

「あの、水仙採ってこようと思って。」

そう言って僕は急な斜面に足を踏みだす。

「落ちたら危ないですよ。」

ひろみは心配そうに見つめながら、斜面と道の境目まで寄ってくる。

「平気だって。」

そう言った時には、斜面の半分まで着いていた。

そして水仙手を伸ばす。

「きゃあ。」

上の方で悲鳴が聞こえ僕は水仙に向けていた目を上にもっていく。

「うぉあ。」

あまりの状況に声が漏れる。

ひろみが上から降ってきたのだ。

後々考えれば、前日の雨でぬかるんでいた斜面に足を滑らしたのだろう。

「助け・・慎也。」

「ひろみ。」

ひろみから俺の名前が漏れる前に俺は、ひろみに向かって腕を伸ばしていた。

伸ばした腕でまずは体を受け止める。

そして体に絡ませ、自分に引き寄せた。

自分の大きな体でひろみの小さな体を包む。

(くそっ、踏ん張りが・・きかねぇ。)

ちょうどボールのようにとてもなって斜面を転げ落ちていった。

俺はそのまま気を失った。
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