秋空
ザシュ

コートを踏みしめる音がする。

祥でも相手でもない。

俺だ。

痛みが全身を駆け抜けていたのかもしれない。

汗がぶぁっと吹き出していたかもしれない。

顔が歪んで悲痛な表情をしていたかもしれない。

しかし、不思議なことに全力で動き出したわずかな間だけは、なにも感じることもなく、いつもの実力を発揮していたような気がする。

ただ蛍光色のボールを夢中で追いかけていた。

全力を出せば一回戦で負けるわけはない。

少しずつ盛り返し後少しで追いつく。

そのとき、

ガサー

体力が無くなったわけではない。

しかし、足が崩れ気づいたらコートに突っ伏していた。

立ち上がろうとした、しかし立ち上がることができない。

今までなにも感じなかったはずの痛みがどんどん強くなってきて思わず声に出る。

「うぐつ、ぐがっ。」

すぐに駆け寄って来る祥を横目で見る。

「棄権するのか。」

一般の人たちは、

[まだやらせるのか。]

と思うかもしれない。

けど俺には最高の励ましの言葉に聞こえる。

「ちょっと転んだだけだ。まだやれる。」

本当はやめさせたかったのだろう。

祥は唇を噛みしめ

「なら早く立て。バカやろう。」

そう言って俺の手をつかむ。

俺は祥の手を借りて立ちあがった。

その後も痛みに耐えきれず倒れたり、足が動かなくなったり、いろいろと苦しめられた。

途中審判の人が

[棄権しますか。]

と訊いてきてさすがに止められると思ったら。

祥が

「大丈夫です。ただ疲れただけですから。」

と、きっぱり言いはなって棄権することなく試合を終えた。

結果は負けてしまった。

でも気分は晴れ晴れとしていた。
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