秋空
「証拠がなかった。誰もそんなことをしている里穂を見た奴がいなかった。とは言え中学生のヤンキーどもに話を聞きに行くわけにもいかず、結局、どんどんみんなの怒りの熱は冷め、一週間もすると、自分は関わりたくないと言わんばかりに、俺以外のすべての奴らが、祥を無視し始めた。それから里穂が転校するまでの間、物を無くしたり、絡まれたりする奴はいなくなった。そして邪魔者がいなくなったと言わんばかりに、休み時間に俺たちのクラスに来ては、祥を独り占めした。そのときの出来事がトラウマとなって、去年はあんな感じだったわけだ。」

「ひどい。」

愛花が唖然とした表情で語る。

「全くだ。あのときの笑顔ときたら至福の喜びみたいだったぜ。あの執念には脱帽するよ。」

「でも、」

ひろみが疑問を口にする。

「いくら時期が重なったとは言っても、証拠が無かったのに里穂さんだと決めつけたのはなぜですか。」

慎也は少し微笑んで答える。

「良い質問ありがとうひろみ。まぁいろいろと状況証拠みたいなのがあったのも推測の足しにはなったが、一番はあれだな。邪魔者をどかして上機嫌になって演技が途切れたのか知らねーがそのときの里穂の一言

[祥は私だけの物なんだから、他の価値のない人間と一緒にいちゃ駄目だよ。]

この言葉が何よりも決め手になった。」

全員シーンとなる。

まさに悪魔のような女、里穂の執念に驚きを覚えながらも、僕たちは、眠りに落ちた。
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