秋空

告白と策略

ガチャ

音楽室の扉を開けて、指揮者のタクトを手にとって振り始める。

「早く練習しようぜ。」

タクトをせわしなく振り愛花をせかす。

「ちょっと待ってよ。まだ鍵盤の開けてないんだから。」

ガタン

と音がした後ですぐに綺麗な音色が響く。

「もういいか。」

僕が聞くと、

「いつでもどうぞ。」

の、かけ声がかかる。

「いくぞ。」

誰も歌う人がいないので、ピアノの伴奏だけが鳴り響く。

その演奏を噛み締めながら、タクトを降り続ける。

ジャジャーン

演奏が終了する。

「ふーっ、やっぱり緊張する。」

時計に目をやると、六時を指していた。

「どうする、後二、三回ぐらいならできそうだけど、やる。」

僕が聞くと愛花は、

「祥、間違えなくなったね。」

愛花の唐突な言葉に、

「あっ、うん。」

気の抜けた返事で答える。

「ねぇ、私は本番で間違えずにできると思う。」

質問したのは僕なのに、と思いながら

「できるに決まってんだろ。今だって、間違えなかったんだから。」

最もらしい理由を言う。

「そんなのわかんないじゃん。それとも何か根拠でもあるの。」

(なんなんだいったい、)

「なに意味わからんこと言ってんだよ。」

「私、怖いんだ。本番でミスったらどうしようとか考えちゃって。」

愛花の体が震えている。

また泣いているのだろうか。

後ろ姿からはわからない。

「また、前みたいに苦しいのか。」

神妙な声で訊くと、

首が縦に揺れた。

そして、

「前に言ったよね。[苦しかったら言え。何とかしてやる]ってだから、私の不安を治して。」

震える声で訴えてくる彼女の背中を、僕はぎゅっと抱きしめ一言。

「間違わないと思った根拠は二つある。」
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