海と魔物のエトセトラ
子守歌の道標
酒臭い酒場。
集まるのは、いかれた頭を持つ者ばかり。
一生分の給料でも届かない、高値のワインのボトルを平気で割る。
他人の頭にぶつけてでも。
彼はなんとも思っていない。
思えないのだ。
この酒場は¨フェニックス¨。
通称¨海賊の楽園¨。
「おい、酒だ!!酒を持って来い!!」
「うるさいなぁ!こっちだって忙しいんだよ!」
「なんだとぉ?店員のくせに、てめぇ何様だ!?」
「何様も糞もあるかよ!!」
気楽な音楽に流れて聞こえてくるのは、若い女の甲高いと男の怒鳴り声。
どうやら言い合いをしているようだ。
酒を求めた男の腕には、ドクロのマークが墨入れさせれていた。
その場にいた客、すべての腕や二の腕、体のどこかに必ず入れ墨があった。
「海賊だろうが、¨ここ¨じゃてめぇらは客だ!!逆らう奴は出て行きな!!」
「おぉ!威勢のいい、姉ちゃんじゃねぇか!もっと言えぇ!」
「てめっ…!どっちの見方だ、ごらぁ!!」
客は怒鳴り声、というよりも、叫び声に似た声で喧嘩を始める。
これがいつものフェニックス。
騒がしいのと、喧嘩しかしないこの酒場は、これでいい。
店の店員である、イルアラ・ファーマンは今日も酒を運んでいた。
喧嘩の真っ只中を器用にすり抜け、人混みをうまく避ける。
注文のテーブルまで、酒は一滴も零さない。
イルアラの主義だった。