海と魔物のエトセトラ
2日間の準備期間
店を閉店させたサリマン。
海賊たちは不満げな顔はしていたが、何も言わず店を出て行った。
そして、今、店にいるのは、彼ら5人組とサリマン、そして従業員だけ。
「従業員がいてもいいの?」
「あの子たちの口は堅いから」
「絶対的な信頼を置いてるね」
さりげない会話を、皿を洗い終えたイルアラは樽に座って、盗み聞きしていた。
従業員、皆、盗み聞きしている。
嫌でも聞こえるのだ。
「――で、歌が歌われたって、本当なの?」
イルアラの位置から少し離れたテーブルについて、椅子に座るサリマンが身を乗り出した。
その正面には腕を組んだ船長の男。
「本当だよ。現に、V2が連れてきてくれたし」
――V2[ヴィツ-]とは人だろうか。
ふと、そんなことを考える。
イルアラは昔から頭の回転が以上に早かった。
――月が血に染まった、というのは今日のことだ。
今日は年に一度、夜の明かりが海に反射して、月が赤く見える現象が起こる日だった。
船長の男は今日のことを言っている。
「でも……¨歌¨が歌われたって……」
イルアラはつぶやく。
誰かが、何か特別な歌を歌っただけで、どうしてここに来るのだろう。
――もしかしたら、月が赤くなる今日、誰かがその特別な歌を歌うと、ここに来なければならないのか…?