海と魔物のエトセトラ
「生意気な娘だ」
「ありがとう。嬉しいわ」
「…………」
「私、2人に飲み物を持っていきたいのだけれど、いいかしら?」
「………好きにしろ」
イルアラは肩をすくめ、コップに入れた水を手に持つ。
フィノという名の男を横目で睨みながら、2人の元へ歩いていく。
(絶対……あの人とは合いそうにないわ……)
ムスッとした顔を残したまま、サリマンや船長の男がいるテーブルへコップを置く。
「お水です」
「ありがとう、イルアラ」
「いえ。―――どうぞ」
サリマンに水を差し出した後、イルアラは船長の男にも水を差し出した。
すると、いきなり手首を捕まれる。
イルアラは船長の男と目を合わせた。
吸い込まれそうなほど深いスカイブルーの瞳。
それは、青い炎にも見えた。
「何ですか?」
「……か」
「え?」
「君だな?毎晩、船歌を歌っていたのは……」
「――どうして……」
どうしてこの男には、イルアラが毎晩、船歌を歌っていたのがわかったのだろう。
もし、この男が毎晩この店に来ていたとしても、船歌を歌っているイルアラを見ていたのだとすれば…。
今、この場で初対面のようなセリフは言えないだろう。
――答えは簡単だ。
彼らはただの人じゃない。
イルアラはそう考えると身の毛がよだった。
(人じゃなかったら一体…)
「サリマン、この子を…」
「――悲しいけれど『掟』には逆らえないわ…」