海と魔物のエトセトラ
「はい。お酒持って来ました」
「おぅ!ありがとよ!そうだ。イルアラちゃん、¨歌¨を歌ってくれよ?」
酒を受け取った男は、イルアラに要求した。
ここに働く前からイルアラが口ずさんでいた¨歌¨。
働き出してからも、口ずさんでいると、その¨歌¨は海賊たちに人気になった。
「酒を飲み干す…酔いは飢えに飢えは酔いに」
イルアラは歌い出した。
静かに、優しく、子守歌のように。
イルアラの歌うその¨歌¨は、意味のわからない歌詞だ。
¨酒を飲み干す
酔いは飢えに
飢えは酔いに
ルビーの酒で
酔いが醒める
ダイヤの酒で
ようやく眠る
太陽は決して
月の彼らを許さない
月は太陽を
許さない。
定められた運命
羅針盤が今 動き出す¨
この¨歌¨が何なのか教えられず、父親が子守歌のように歌ってくれていた。
怪しげな歌詞に一時は気味悪く感じた。
だが、今となってはどうだろう。
客に、それも海賊に聞かせれる¨歌¨になっていた。
「羅針盤が今…動き出す……」
イルアラが歌い終わり、閉じていた目を開く。
気づけば、辺りは騒ぐのも、喧嘩をするのもやめて、イルアラの¨歌¨を聴いていたのだ。
「やっぱり、いつ聴いてもその歌は……なぁ?」
「歌手がイルアラちゃんでも」
歌い終われば、いつもざわつき始める。
先程のように馬鹿みたいに騒ぐのではなく、ざわざわと小さな声が、あちこちから…。
「皆の思う通り、私が今、歌ったのは¨船歌¨。それも、魔物の海賊船の」
イルアラは澄ました顔で言ってやった。