海と魔物のエトセトラ
すると、頭に直接、響くような声が聞こえた。
『誰だ…俺たちの道を邪魔するのは……?』
イルアラはハッとして辺りをキョロキョロと見回した。
頭に響くような¨声¨はあの男と同じだったが、声色は違った。
ハスキーな男の声。
辺りに、怪しい男はいないし、そんな声は騒ぎ声に紛れて聞こえない。
それどころか、その声に誰、1人と気づいていない。
「何…?これ…」
『…貴様が歌を歌った以上、我らは貴様を……』
そこでノイズがかかったように雑音が聞こえ、何と言ったのか聞こえなかった。
「なんなの…一体…」
イルアラは何が何だかわからない状態で、瓶をカウンターまで持っていくと、樽[タル]の上に座る。
頭の中から雑音は消え、ただの騒ぎ声しか聞こえなかった。
「きゃ!…びっくりしたぁ」
急にカウンターから出て来た少女がイルアラを見て驚いた。
それはそうだろう…。
青白い顔をした長髪の女が頭を垂れて座っているのだから。
「あ、ラン。…ゴメン、脅かせるつもりじゃなかっ――」
「青白い顔だよっ。何かあった?」
その女、ラン・リーはイルアラの親友だった。
彼女の親は中国人とフランス人であったため、色白で青い目と黒い髪をしていた。