海と魔物のエトセトラ
そして、青い目の男に飛び掛かる。
その間は3m…2m…と縮まった時――
「おい!海賊ども、やめな!」
突然、店に響いた女の声に、海賊たちは振り下ろそうとしていた拳を止めた。
(――あ、また……)
イルアラは声の主のほうを見て、いたたまれない気持ちになった。
店の奥にある、貝殻で出来た簾[スダレ]から出てきたのは色白の女。
黒と茶色の混じったような色のドレスは、胸元が開いていて胸の谷間が見える。
華奢な肩には薄いベールが羽織られてあり、その端には貝殻が縫い付けられていた。
そして、女の最も印象的なのは顔だ。
青と緑の瞳を持ち、左瞼から真っすぐに伸びた、爪跡。
正確には傷痕のほうが正しいかもしれない。
その女こそ、サリマン・アジュリア。
「その客は、¨わたし¨の客よ。怪我をさせたら容赦しないよ…?」
カツカツとヒールの音を立てて近づいてくるサリマン。
その足首は今にも折れそうなほど、細く弱々しかった。
「すみません、Ms.サリマン」
「ん?何、イルアラ」
「体を休めて下さい。前より、細くなられてますね?」
イルアラはサリマンの姿をほって置けはしなかった。
だからこそ、怒られるのを覚悟で彼女の目の前に立ちはだかった。
「………よくわかるのね、――そうよ、前より少し痩せたわ」
「やっぱり……」
長い睫毛を伏せて、イルアラの手を両手で包み込むサリマン。
壊れ物ように手の甲を撫でられる。
「でも、今日だけは許してちょうだい……」
「………私たちはMs.サリマンを母のように思ってます」
「ありがとうね」
そういってイルアラの手は離された。
退けろ、という意味でサリマンに微笑まれ、イルアラは身を引く。