我が輩は嫌われものである
我が輩は世にも嫌われるものである。名前はまだ言わない。
人の世には靴墨を用いて靴をわざわざ擦り、その上塗りされた光は、一種の判断基準になるらしい。
我が輩が生まれつき身につける黒ダイヤとよばれる、特有の輝きに似せようとしているとしか、言いようがない。
その割には私の外見を馬鹿にし、醜いとさえ罵り、人が私を見つければ私を殺そうとさえするのだ。
人間は私を侵入者のように扱うが、私の祖先達がこの土地に住み着いてからは3億年近くになるのだ。
人間には長い歴史を自慢げに振り返る悪習慣がある。
私たちにすれば、昨晩の出来事にもみたないくらいのものを轟々しくも歴史というのだ。
縄文土器だの、光秀が信長を裏切っただの、都が移っただのが何だというのだ。戦争によって幾人もの人間が滅んだのがどうしたのだ。
私たちはきのうまで存在もしなかったような、進化生物との生存競争で生き残り、氷河期も生き残り、この姿のままで戦ってきたのだ。
そんな短い期間の種間競争はまったくお話にならない。痴話げんか、いやはや、うるさい痴話げんかだと言えるだろう。
痴話げんかの歴史などは暇なもの同士が、時間を無駄使いするのに使えばいいのだ。
だから、人間風に言えば、人間が目的地にむかうときに、毎日のように革命騒ぎをしている蟻の権力争いだの、市民騒動だのに耳を貸すだろうか。
おそらく気付きもしないであろう。しかし、その蟻達が、あるとき歴史について自慢げに語りだしたらどう思うだろうか。
ただでさえ、興味も薄いのにちっぽけな歴史だのを、あたかもこの世の全てのものが注目する出来事のように語るのだ。
おまけに、人に向かって小さい蟻が"ここは、私たちがもう2年近く住んでいる土地だ、出て行け"と主張するのなら、出ていくのだろうか?
しかも、それを聞いて、もし立ち退かないのなら、蟻は自らの私有地だと主張するに建てられた家を取り壊しにかかるだろう。
そして、人間は"ふざけるな"と、蟻と戦うことを決意するだろう。
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