~color~

***



「おはよう~」


更衣室に先にいた女の子にそう言うと、あたしはすぐさま携帯を取り出し飛翔くんに《着いたよ、頑張るね》とメールを送った。


よし!!と気合いを入れなおしてロッカーを開ければ、白いドレスが目に入った。


『白好きなの?』


そう初めて飛翔くんが、あたしに問いかけた言葉。


今まで、似合ってるね!!とか、白のドレスいいね!!なんて言ってくるお客さんなんて腐るほどいたけど、


好きなの?なんて聞いてきたお客さんは飛翔くんだけだった。


『白になりたいのっ!!』


あの時、そんな風に返したけど、嘘なんかじゃなかった。


あたしは白になりたかった。


真っ白くなって、そして何色にも染まらない白


だけど、今は違う……



あたしの汚い部分を白く塗りつぶしてほしいと思ってしまう。


真っ黒い部分が強くて、そんなこと不可能に近いはずなのに……



《そんな頑張らなくていいよ》


ドレスを選んでいれば、そんな風に飛翔くんからメールが受信されていて



「頑張らなくていい、か……」



そう小さく呟くと、あたしはその場で腰をおろした。



頑張らなくていい


そんな風に誰かに言われたことなんて、なかったかもしれない。



頑張れ、頑張ってるね、そんな言葉が当たり前で、あたしは今までずっと突っ走ってきた。



〝頑張らなくていい”


たったひとつの言葉に胸をしめつけられる。


あたしはきっと、いつも気を張って生活している



泣かない


弱さなどみせない


あたしは強いんだから


あたしならできる



考えてみると、自分が気を抜ける場所なんてあるのだろうか



頑張らなくていいよ



その何気ない飛翔くんからのメールがあたしの行き詰っていた心に穴を開けてくれて



大切な気持ちだけを残して張り裂けそうだったものが零れおちていく……





まるで、そんなの不必要だと言われたかのように……




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