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あんだけ大声で笑いながらも、あたしの目を捉えてる司くんは、あたしが入った時からの指名客で、あたしよりも1つだけ若い。
結構頻繁に、あたしに会いに来てくれてる太客でもある。
ただ、司くんは、彼氏がいる女の子にだけは、冷たいというウワサがあり、ここで、あたしがヘマしたら、次からの指名は間違いなくなくなるに違いない。
たった1人のお客さんでもキャストの女の子にしたら重大なことだ。
「伊織ね……彼氏できたの……」
あたしのことをずっと見ていた司くんの方に目をやると、あたしはその目を離さずそう言った。
「は?嘘だろ?まじ?」
「うん、ほんとだよ、だから、そろそろこの店も引退かなって……」
いきなり変わった司くんの目……
そう、この人にこんな話をすること自体、ご法度だろう
「な~んちゃってねっ!!!」
「はっ?うそ??」
「嘘に決まってるでしょ~?本当だとしたら、何も言わずに辞めてるって~」
ケラケラと笑うあたしに便乗して、司くんも笑いながら、喉が渇いたのか、あたしが作ったお酒を凄い勢いで体の中に流し込んでいく……
「ったくよ~伊織にはやられっぱなしだわ~」
一瞬で険しい顔から安緒の表情に戻ると、あたしも頼んだカクテルを体に流し込む。
「やられたわ~」
「ないない!!」
司くんの笑顔を見ながら、
本当なのに……
そう心の中で呟き、飛翔くんが初めて店に来たときに座っていた場所に視線を流す。
この嘘だらけの世界で、いくつもの仮面をつけていたこの場所で、あたしに心を運んできてくれる人と出逢うなんて思いもしなかった。
少し目を閉じてみれば、恥ずかしそうにあたしを抱き寄せてくれた飛翔くんの顔が浮かんでくる……
それを思い出すだけで自然と笑みが零れる……
愛おしい……
何処にいても、誰といても、何をしていても、考えてしまう存在……
飛翔くんのことを考えているだけで幸せだと思ってしまうのは、異常なことなのだろうか。
持っていたグラスを置くと、不思議そうにあたしを見つめる司くんの顔があった。