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「おい!!って……」
「えっ?なに??ごめん」
「伊織、今遠くの方に行ってたぞ?」
「ごめん、ごめん、戻ってきた!!どした?」
「いや、今日はな…落ち込んでんだ」
「なにかあったの?」
「女に振られたぁ!!!」
そう少し、寂しそうに笑う司くんは今日の飲みっぷりを見ると、そうとうきているに違いない。
「そうなの?」
その言葉に小さく頷くと、飲みほして空っぽになったグラスををあたしに預けようとする。
「結局よ、旦那の所に戻って行ったんだ、俺となんて所詮、ちょっとした出来心ってやつだよ」
ーーガッシャーン!!!--
「あっ!!ごめんっ!!」
司くんから預かったグラスにウイスキーを入れようとボトルを手にした時だった
司くんの言葉が胸に刺さり、あたしの手からそれは簡単にスルリと足元の方に落ちていった。
「本当にごめんなさい……」
あたしは何を動揺しているのだろう。
目の前に居るのは飛翔くんなわけじゃない。
それなのに、一瞬だけ重なって見えたんだ……
「平気だよ、大丈夫か?」
「うん」
そう言いながらボーイが来るまでに、あたしは自分でガラスの破片を拾い集める。
「簡単によ、壊れちまうんだよ……」
あたしは聞き逃さなかった
司くんがあたしの頭の上の方で呟いた言葉を……。
「いたーーーっ!!」
「おい、大丈夫かよ、どいてみろよ」
あたしの代わりに司くんが、ガラスの破片を集めてくれている。
あたしは、少しだけ指からにじみ出ている血をただ見つめてた。
痛いのは、指なんかじゃない。
司くんの言葉の方が、胸に突き刺さってきて何倍も痛かった。