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『その時、俺は誓ったんだ。もう旦那がいる人は絶対に付き合ったり、好きにならないって……』
『流奈は割り切れる?おれと割り切ってできる?』
さっき逢った時に言われた飛翔くんの言葉があたしの中で繰り返される。
「失礼しました、お怪我はないですか?」
ボーイが掃除用具を持ってきて、司くんに頭を下げている。
「いいや、大丈夫。それより伊織は大丈夫か?」
「ううん、ぜんぜん平気、ごめんね」
あたしはここまできて一体何をしているのだろう。
司くんの一つ、一つの言葉に左右されて、仕事中だというのにこの有様だ。
「大丈夫だよ」
「すみません」
ボーイにも頭を下げると「大丈夫」と笑顔で交わされてしまった。
不甲斐ない……
ガラスの破片は綺麗に片付けられて、新しいボトルとグラスがテーブルに置かれると、あたしはアイス(氷)をいれながら、小さく呟いた。
「大切に、大事にしてればきっと壊れないよ…」
気が付けば、そんな言葉が勝手に出てきて
それはまるで、飛翔くんに語りかけているような錯覚におちている。
「そうかもしれないな、きっと俺はもう割りきれなくなって、アイツを苦しめたんだ」
悲しそうに笑う司くんに、この時ばかりはあたしは笑顔を返せなかった。
作ったお酒をコースターの上に置けば、再び司くんは、それを一気に飲み干した。