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《ごめんね…飛翔くん》
《俺も今から帰るよ》
《気をつけてね!!》
《流奈もだよ?家着いたら連絡くれな》
《分かったよ》
そのメールと共に、あたしは車から降り、そっと鍵をした。
後、何歩歩くと家に辿り着いてしまうのだろう。
この想いを抱え、あたしは玄関を開けるんだ
目を閉じると、もうじき終わろうとしている夏の夜の風が心地よく包み込む
あたしの足がゆっくりと動くと砂利で敷き詰められた駐車場が音を鳴らす。
見上げると家につづく長い階段
それを一段ずつ上るたびに、むりやり気持ちを心の奥底に押し込めようとする
「ただいま」
返ってこない返事だと分かりながらも、口癖なのだろうか、決まって言葉にする
その言葉と共に、この扉を開けてしまったのなら、あたしは妻であり母親
この二つの仮面をつけることになり、女の仮面を外そうとする……
それでも、心の中にある飛翔くんへの感情はなくなりはしない。
いっそのこと、この気持ちも封印することが出来るのなら、どんなに楽なのだろうと、
高いヒールを脱ぎ捨てながらこの日ばかりは思ってしまった。